ピカソの作品は、同一人物が描いたと思えないほど、画風が変わっていきます。10代の頃は、写実的なデッサンに基づいて描いていますが、だんだんと抽象的な描写に変化しています。

20代中頃には、キュビズムと言われる手法で、モデルや静物をデフォルメしたり、抽象的な形に置き換えたりして描きました。

その後、さらに画風は変化して、新古典主義という作風を取り込んで名作「海辺を走る二人の女」を生み出します。

海辺

この画風は、モデルをデフォルメせずに、写実的に描くとともに、イタリアの古典美術の要素も取り入れています。

この作風が出来有るきっかけは、一番目の妻となったオルガ・コクローヴァの存在が大きく関係しています。

オルガと出会う直前、ピカソは友人から、ロシアバレエ団の衣装や舞台装置の制作を依頼されていました。そこで活動するうちに、バレエ団に所属していたオルガと出会ったのです。

好きになった女性をモデルに描くのは、ピカソの得意とするところです。もちろん、オルガのこともモデルにしますが、彼女からピカソに「自分の姿を誰が見てもわかるように描いてほしい」と言われます。

持ち味にしていたキュビズム表現を拒否されたため、古典的な手法で彼女を描きました。さらに、同時期に旅行したイタリアで、古代の美術作品に影響を受けて、これまでとはガラリと作風を変えました。

画面には明るい色彩を使い、モデルの肉体は量感と生命力溢れる描写をするようになります。こうした作風は、ギリシャ・ローマ彫刻や絵画の豊満な肉体美から影響を受けていると言われています。

こうした流れのなかで生まれたのが「海辺を走る二人の女」です。画面の中に描かれている女性は、輝く青い海を背景にして、浜辺を走っています。

その肉体は、イタリアの古典彫刻のように豊満な肉体として描かれ、走る姿も生き生きとしています。

彼女たちの大げさなくらいの躍動感は、バレエ団の仕事をするなかで見つけた描き方でした。画面の女性を良く見ると、バレリーナたちがとるポーズに似通っているのがおわかりかと思います。

バレエ

さらに彼の凄いところは、イタリア古典美術やこれまであった写実表現だけにとどまらす、抽象的な表現も混ぜていったこところです。

「海辺を走る二人の女」で言うと、彼女たちの顔や胸などは古典美術の影響が見られますが、腕や足は極端に太く丸太のように描かれています。

この作品は、32.5㎝×41.1㎝とサイズはそれほど大きくありません。それでも、画面から溢れんばかりの生命力と躍動感によって、大きな存在感を感じさせてくれます。

愛する妻の好みによって、どうしても作風を方向転換させなければならなかったピカソ。イタリア旅行やバレエ関係の仕事をするうちに見つけた画風は、またしても名作を生み出すことになりました。